ロサンゼルス郡美術館(LACMA)の日本館で7月28日(日)まで、日本を代表する浮世絵師、葛飾北斎の版画を展示した「北斎展」が開催されている。5日には、日本美術部長のロバート・シンガー氏によるツアーが催され、一般来場者に北斎の世界観を伝えた。
ツアーにはおよそ100人が参加。ゴッホに代表されるように、西洋美術にも大きな影響を及ぼした北斎の米国での人気を物語っていた。
「諸国滝廻り」や、「冨嶽三十六景」のひとつで「赤富士」としても有名な「凱風快晴」や「神奈川沖浪裏」のほか、「百人一首」、「琉球八景」など、墨絵も含め計35点が展示されている。
特に「諸国滝廻り」は全8図そろっており、すべて初刷(北斎自らが刷った作品、または北斎監修のもと刷られた作品)。初刷は色がよく、ずれもない。同作は後刷も多いため、8図すべて初刷でそろっているのは日本を含め世界中探しても大変珍しい。
版画は世界の名だたる美術館が所蔵しているが、照明などの影響で色の変化が起こりやすく、長期間の展示は難しい。北斎の初刷ともなると所蔵し展示できるのはLACMAだけといっても過言ではないという。
ツアーでは版画が刷られる工程や北斎の作品の魅力をシンガー氏自ら解説。北斎の作品で多く用いられた青色は、ドイツから入ってきた新しい色だったこと、版画には当時大変貴重だった楮紙(こうぞがみ)を使用し、多くの工程を経て刷られていたことなども説明。
また北斎は改号(雅号を変えること)と引っ越し回数の多さでも有名。改号に関しては生涯で30回以上、引っ越しは93回もしている。「生きている間に100回は引っ越したい」と語っていたという事実にはツアー参加者からも驚きの声があがった。
シンガー氏は「凱風快晴」と「神奈川沖浪裏」の日米の人気の違いにも言及。日本では、赤く染まった雄大な富士山が静かな印象を与える「凱風快晴」が人気で、米国では、荒れ狂う高波がダイナミックな「神奈川沖浪裏」に軍配が上がると説明。参加者はみなうなずき国民性の違いを芸術から感じとっていた。
展示作品はすべて個人収集家からの寄付。「諸国滝廻り」は日本美術収集家のマックス・プラスキー氏が40年ほど前に全8図すべて揃えて購入した。
2011年に同氏が亡くなり寄付された8点と、以前からLACMAが所蔵していた作品、そして同じく日本美術愛好家のバーバラ・ボーマン・コレクションからの9点が飾られている。展示には日本美術を愛した収集家たちへの感謝と尊敬の念が込められている。
LACMAの開館時間は月・火・木曜が午前11時から午後5時まで。金曜が午前11時から午後8時まで。土日が午前10時から午後7時まで。水曜休館。入館料は大人15ドル、シニア10ドル、学生10ドルとなっている。【吉田純子、写真も】
↧