日本食卸売業の共同貿易(山本耕生社長)は、業界関係者を対象にした食品見本市「日本食とレストランエキスポ」を11日、パサデナのコンベンションセンターで開催した。日本食がユネスコの世界文化遺産に登録され、業者には、より一層の活躍が期待される中、国内外から約100社が参加し、過去最高の2200人を超える来場者を相手に積極的に試食・試飲を薦めたり、自社製品の説明に努めるなどし商談につなげた。充実した内容の各種セミナーとワークショップも開かれ、会場は活気に溢れた。【永田潤、写真も】 共同貿易は、日本食業界のトレンドや最新情報を顧客に伝えている。最近では品数豊富な「居酒屋メニュー」と呼ばれる、安くておいしい大衆料理に力を注いで、日本食の裾野を広げることに努めている。イベントでは、高級食の刺身や地酒、地ビールなどの紹介とともに、ラーメンやうどん・そば、おでん、ギョーザ、焼売、たこ焼き、玄米おにぎり、焼酎などを振る舞い、さらなる大衆化を促進。さらに、サルサ風のラーメンやフランス料理の食材に西京味噌を合わせるなど、多人種の米国ならではのフュージョン料理も提案された。 セミナーとワークショップは、料理のおいしさを引き出す糖質調味料「トレハロース」、「地酒メニューの開発」、「カクテル職人の焼酎調合法」、「地ビールへアップグレード」、「包丁を研ぐ上達法」などと題し、各界から招いたエキスパートが講師を務めた。参加者はそれぞれに、業績アップにつながるコツを学ぼうと聴き入った。 トレハロースは、でん粉から酵素を使って作られ、料理に用いると、食材の細胞やたん白質を乾燥などから守り、鮮度を保ち、食品の劣化や変色・変質防止に効果がある。安全性は、ホールフーズやトレーダー・ジョーズで扱う商品に用いられ、折り紙付きだという。 トレハロースは、難しいとされていた大量生産・商品化に成功した「ナガセ・アメリカ」(本社ニューヨーク)が売り出し、同エキスポで初めて紹介した。セミナーでは、同社営業・マーケティング部長の茂住知成さんが説明し、トレハロースを使った料理の実演をロサンゼルスの和食店「WADATSUMI」のオーナー&シェフ播川哲也さんが行った。 茂住さんによると、トレハロースをご飯やすし米に混ぜると「ふっくら炊きあがり」、野菜は生では「さくさくとした食感が味わえ」、ゆでても「歯ごたえがよく、変色を抑制する」。魚や肉は「柔らかくジューシーに焼け」、しめさばなどの刺身は「色彩がよく、生臭さが抑えられ」、唐揚げや天ぷらは「外はカリカリ、中は柔らかく」、そして特に効果的なのは、たまご焼き、出し巻、茶碗蒸しで「ふわふわで、クリーミーさが増す」という。風味や食感などが向上する上に、鮮やかな色に調理されるため、客の目を楽しませる料理人とっては、うれしい。砂糖と大きく異なるのは、甘さが約40%で、べとつかず、焦げにくいのが利点。茂住さんは「食べて安全で、化学調味料やMSGを一切使用していない。おいしく調理できるので、料理を食べたお客さんに喜んでもらえる」と薦めた。 播川さんは、店でトレハロースを重宝しているといい「特に自家製豆腐に使うと、にがりの苦味が抑えられおいしくなる」という。「料理人は、トレハロースを使わないと損だと思う。(和食の調味料の)『さしすせそ(砂糖、塩、酢、醤油、味噌)』に加えてもいいくらい欠かせない」と太鼓判を押す。さらに「料理は作りたてがうまいが、トレハを使えば冷めてもおいしい」と力を込めた。播川さんは、和食店の「寅福」で12年間、シェフを務めた後、このほど同店を買い取り、屋号を変え営業を続けている。 トレハロースのセミナーに参加したノング・クエルビンさんは、妻のチョナさんと日本食のケータリング・サービス「スシ・バル」を始めて5年が経つ。「順調に伸びている」というビジネスは「すしバーを、あなたの家、職場、各種スペシャルイベントで」をコンセプトにロサンゼルス、オレンジ郡、サンディエゴ、どこにでも出張する。フィリピンに暮らしていた頃から日本食と日本文化を好み、渡米後は迷わず、すしシェフになり、まさに「包丁一本」で店を渡り歩いて腕を磨き独立した。「日本食、特にすしは、フレンチやイタリアン、メキシカン、チャイニーズと比べ儲け率が大きいので、ケータリングビジネスには最適。日本食とすしは、アメリカ人が大好きで、パーティーでは『おいしい』と言って、お腹いっぱい食べてくれるのが嬉しい」と話す。この日初めて試食したトレハロースについて「味だけではなく、料理の見栄えも良くなるのに興味がある。今日もらったサンプルを試すのが楽しみ」と語った。 山本社長「担い手は非日本人」 「本質」重視で、啓蒙に力 同社によるイベント来場者の調査では昨年比で200人増で、増加の主因はベトナムやタイなど東南アジア系が増えたためと分析する。山本社長は、米国の和食店は約2万5000軒で、日本人経営者は全体の2割を切ったと説明し「日本食の担い手は、非日本人になる」と言い切る。多くの人種による経営を歓迎する一方で、日本食が無国籍化することを懸念し「本質を見失わないようにしなければならない」と力説。包丁の研ぎ方や魚の捌き方、コメの炊き方など、今後も啓蒙に力を注ぐ考えを示した。 山本社長によると、同社は日本食が高級食と大衆食の「二極化」に向かうと捉え、高級のすし、割烹、鉄板焼き、地酒などと、大衆のラーメンやカレーライス、回転ずしなどをそれぞれ並行して、プロモートし普及させるという。山本社長はまた「日本食には、日本酒が合う」と強調し、日本食と日本酒を「車の両輪」に例える。地酒、地ビール、焼酎の販売促進に努めながら、焼酎カクテルのレシピを考案するなどして「日本の酒文化を広めたい」と意欲を示した。 金井会長「これからが勝負」 大衆化で、普及を加速させる 同エキスポは、同社の金井紀年会長の提案で、25年前に始まった。会長は当初と比べ「ここまで大きくなった。痛快な気分」と話す。「日本食を世界に広めたい」という一心で、約60年前に単身海を渡った。当時は「アメリカ人は誰も日本食を食べなかった」と振り返る。地道な普及活動は実を結び、健康食と認知され、生魚とすしは市民権を得、今では大衆食までが定着しようとしている。だが「まだまだ。世界に広めるには、これからが勝負」と気を引き締め、91歳になった今も、世界普及への執念は衰えを知らない。 大衆化については「日常食には、はやり、廃りがない」と説き、「広まれば、アメリカ人の胃袋を握ったようなもの」と表現。日本食の底辺拡大の鍵は「家族のそれぞれが、好みの日本食を食べるようにしなければならない。おでん、ラーメン、うどん、そばなど、メニューはいろいろあるので、もっと広めなければならない」と語り、大衆化の波に乗って普及を加速させる。
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